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雪の思い出 その1

僕のルーツは中国山地の山間部の集落にある。
あまりイメージはないかもしれないが、中国地方は最西端の豪雪地帯で
冬の雪に苦しめられる場所にギリギリ入っている。
雪のニュースになると、懐かしい地名をよく耳にするのでノスタルジーに浸ることもある。

 

小学校への通学路には雪がいっぱいに積もって、スキーウェアを着てテクテク歩いて登校していた。ストーブが家庭にある時代に生まれたおかげで、小さい子供の時分は心置きなく雪をみてはしゃぐことができた。大人だったら雪かきの心配や、屋根からずり落ちてくる雪の心配でいっぱいいっぱいである。

通学路に点在する高い高い竹林が、雪の重みでたわんで
アーチ状の屋根のようになっている中を、 先っぽを思いっきり引っ張って離して
雪まみれになるのが楽しかった。普段あんなに遠くにあるものに手が届いた。


登下校はいつだって雪合戦の戦場になるから気が抜けなかった。
雪玉が握りやすいような手袋を買ってもらってた。
雪玉のために雪を掘り返しすぎると、土や石がくっついてきたし、
側溝が雪で隠れて危ないから、足でつついて崩すとズボっと穴があくのも
何だか楽しかった。
今見えている世界の底には普段の世界があることが垣間見えて安心した。

新雪が一番嬉しかった。柔らかくて、踏みしめれば「ギュムムム」と感触が伝わるし、
雪玉が作りやすかった。飛び込めばまるでベッドのようだった。
日が経つと徐々に外側から凍ってゆく。まだ初めの頃は外カリ中フワみたいだけど、
だんだんただの氷塊になってゆくのだった。
雪も死ぬんだと知った。

 

日が暮れた、一面見渡す限りの雪景色では、一年で最も静かな時間が訪れる。
人の声も、獣の声も、風の声も水の声も、森の木々が揺れる声もしない。
冷たさが、五感で感じられる何もかもを固めて、
「しーん」という擬音語すら陳腐に思える、無音さえ鳴らない本物の静寂がある。
同じ静寂を聞けることがあるとすれば、宇宙に行くか死んだ時かもしれない。

 

 

「ハァ中に入りんさいや。風邪引くけぇ。ストーブの前ェ来てあったまらにゃあ。」
という声が破壊するのは静寂だけではないのです。